日常生活の中で「ポキッ」「コキッ」と関節が鳴ること、誰しも一度は経験があるでしょう。それが指であれ、膝であれ、首であれ、その音に「大丈夫かな?」と不安になる人も少なくありません。
今回は、関節の音がどうして鳴るのかという生理的メカニズムから、注意すべき危険サイン、そして施術やリハビリの現場で役立つ知識まで、専門的に解説します。
◆ 音が鳴る関節の種類とその頻度

音が鳴りやすい関節には以下のような特徴があります:
- 滑膜関節(synovial joint):膝・肩・指・頸椎など
- 頻度が高い動作:屈伸・牽引・回旋などの関節可動域運動時
◆ 関節音の正体1:気泡破裂説(キャビテーション)

最も一般的に知られている説がこの「キャビテーション(cavitation)」です。これは関節を急激に引き離すことで、関節包内の圧が急激に下がり、滑液中に気泡(主に二酸化炭素)が生じ、それが破裂することによって「ポキッ」という音が生じるというものです。
【出典】
- Kawchuk GN, et al. (2015). “Real-time visualization of joint cavitation.” PLoS ONE.
この音自体は、痛みや炎症を伴わない限り「生理的音(physiological noise)」として正常とされています。
◆ 関節音の正体2:靭帯・腱のスナッピング
次に多いのが、靭帯や腱が骨を乗り越えるように移動し、「スナッピング音(snapping sound)」を発するケースです。これは以下のような場所で多く見られます:
- 腸脛靭帯と大腿骨外側上顆(ランナー膝)
- 大腿直筋と寛骨(股関節スナッピング)
- 肩の腱板と肩甲骨(インピンジメント)
このようなスナッピングは繰り返されることで摩耗や炎症の原因になることもあり、施術や運動指導での注意が必要です。
◆ 危険な関節音のサインとは?

以下のような音や状況がある場合は、何らかの障害が疑われます。
1. 音とともに痛みがある
→ 軟骨損傷や関節包の炎症の可能性あり
2. 関節が引っかかる感覚を伴う
→ 半月板損傷、関節ネズミ(遊離体)の可能性
3. 関節の腫れ・熱感・可動域制限がある
→ 関節内炎症(滑膜炎・関節リウマチなど)
4. 継続的に“ゴリゴリ”“ジャリジャリ”とした音が出る
→ 軟骨の摩耗や骨棘形成に伴う摩擦音(クレピタス crepitus)
【出典】
- McCoy GF, et al. (1987). “Crepitus in the osteoarthritic knee.” J Bone Joint Surg Br.
◆ クレピタス(crepitus)の専門的解釈

変形性関節症などで見られる「クレピタス」は、関節内で軟骨が削れ、骨同士や骨棘が擦れ合うことで発生する摩擦音です。これは高齢者や関節酷使者によくみられ、滑液の粘性低下や軟骨欠損と関係があります。
摩擦係数の上昇が音の正体になっていることもあり、前回の摩擦に関する記事とつなげて解説すると理解が深まります。
◆ 施術者・治療者としての注意点
関節音は必ずしも悪ではなく、文脈によって意味が大きく異なります。以下のような視点で判断すると良いでしょう。
- 音とともに症状があるか(痛み・不快感・可動域制限)
- 音が新たに出始めたか、長期間持続しているか
- 関節構造上の問題が潜んでいないか(触診・可動域評価・画像診断)
音だけにとらわれず、全体の評価と組み合わせて判断する姿勢が、臨床において重要です。
◆ まとめ
関節の音は、生理的なものと病的なものに分けられます。「鳴る=悪い」ではなく、その音の性質や状況を冷静に分析することで、より的確な施術やセルフケア指導につながります。
- キャビテーション音は基本的に無害
- スナッピングやクレピタスは注意が必要
- 痛みや可動域制限、腫れを伴う場合は医療連携を検討
音の意味を見極める力が、関節治療の精度を高めます。
【参考文献】
- Kawchuk GN, et al. (2015). “Real-time visualization of joint cavitation.” PLoS ONE.
- McCoy GF, et al. (1987). “Crepitus in the osteoarthritic knee.” J Bone Joint Surg Br.
- Brodeur R, (1995). “The audible release associated with joint manipulation.” Journal of Manipulative and Physiological Therapeutics.