なぜ後頭下筋が硬いと眠れないのか?〜頸椎と自律神経の深い関係〜

関節について

「最近、寝つきが悪い」「夜中に何度も目が覚める」——そんな悩みを抱える方の中には、“首の筋肉”に原因があるケースがあります。特に、頭の付け根に位置する“後頭下筋群”がカチカチに硬くなっていると、知らず知らずのうちに自律神経が乱れ、心身が興奮状態に陥っている可能性があるのです。


◆ 後頭下筋群とは?

後頭下筋群とは、頭蓋骨の下・頸椎の上部(C1〜C2)に位置する小さな筋肉の集まりです。以下の4つの筋肉で構成されています。

  • 大後頭直筋(Rectus Capitis Posterior Major)
  • 小後頭直筋(Rectus Capitis Posterior Minor)
  • 上頭斜筋(Obliquus Capitis Superior)
  • 下頭斜筋(Obliquus Capitis Inferior)

これらの筋肉は、頭の動き(回旋や軽い後屈など)を調整する働きと、姿勢・バランス感覚に重要な“固有感覚”の制御を担っています。


◆ 後頭下筋と“自律神経”のつながり

1. 脳幹との近さがカギ

後頭下筋のすぐ近くには、自律神経の中枢である「脳幹(延髄・橋・中脳)」が位置しています。脳幹は、心拍数・呼吸・体温調節・睡眠など、無意識に働く生命維持活動をコントロールしています。

2. 筋膜の緊張が脳幹ストレスに

後頭下筋が慢性的に硬くなると、筋膜や靭帯が引きつれ、脳幹周囲の軟部組織に圧力が加わることで、血流が低下し、脳幹の働きにも悪影響を及ぼす可能性があります。

3. 興奮モードが止まらない

その結果、自律神経の“ブレーキ役”である副交感神経の働きが弱まり、“アクセル役”である交感神経が過剰に活動。常に「緊張・警戒・焦り」モードになり、睡眠に必要なリラックス状態に入れなくなるのです。


◆ 固有感覚と不安感の関係

後頭下筋群は、筋紡錘(筋肉の中の感覚センサー)が非常に多く存在する筋肉群です。そのため、首や頭の位置を正確に感じ取り、視覚・平衡感覚と連携してバランスや空間把握を行っています。

この部分が硬直すると、重心や空間感覚にズレが生じ、「地に足がついていない感覚」「不安定感」が強まり、結果として自律神経が不安定になります。つまり、心身ともに“落ち着かない”状態が続いてしまうのです。


◆ 実際の研究・論文紹介

1. Hack et al. (1995)

“The role of the rectus capitis posterior minor in tension-type headache.” → 小後頭直筋が脳硬膜と連結しており、その緊張が脳脊髄液の循環障害や頭痛、自律神経不調に関与する可能性を示唆。

2. Fernandez-de-Las-Penas et al. (2007)

“Suboccipital muscle tension and pressure pain thresholds in patients with chronic tension-type headache.” → 緊張型頭痛の患者では後頭下筋の圧痛が強く、自律神経の不安定さや過敏反応との関連が見られた。


◆ 臨床での施術アプローチ

  • 後頭下筋リリース:軽い指圧や持続的牽引で筋緊張を緩める
  • C1・C2のアジャストメント:アライメント調整により神経伝達や血流改善を促す
  • 筋膜リリースと呼吸誘導:横隔膜との連携を意識した施術で副交感神経を優位に

施術後は「首が軽くなった」「呼吸が深くなった」「ぐっすり眠れた」などの声も多く、再現性のある反応として報告されています。


◆ セルフケアのススメ

  • テニスボールを使って後頭下筋を軽く刺激(壁に背中をつけて行う)
  • ホットタオルで首の後ろを温める
  • 日中に深い鼻呼吸を意識し、副交感神経を刺激

◆ まとめ

  • 後頭下筋の過緊張は、単なる肩こりだけでなく自律神経の乱れ・睡眠障害・不安感にも関与している
  • 首の深層筋にアプローチすることで、自律神経のバランスが整い、心も身体もリラックスしやすくなる
  • 睡眠に悩む人、疲れが取れにくい人には“首ケア”が最重要ポイント!

【参考文献】

  1. Hack GD, Koritzer RT, Robinson WL, Hallgren RC, Greenman PE. (1995)
  2. Fernandez-de-Las-Penas C, Alonso-Blanco C, Cuadrado ML, Pareja JA. (2007)

眠れない夜は、もしかしたら首が出しているSOSかもしれません。まずは自分の首にそっと手を当てて、その硬さと緊張に気づくことから始めてみましょう。

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