股関節の「つまり感」や動かしにくさ、違和感といった症状は、日常生活や運動時に不快感を引き起こすだけでなく、膝や腰の不調とも密接に関係しています。
実はその背景には、「股関節の偏位(ずれ)」や「前捻角の異常」、さらには「O脚・X脚」、「踵の傾き」など、身体全体のアライメント(配列)バランスが大きく影響していることが研究でもわかってきています。
この記事では、理学療法士や整体師としての視点から、最新の研究データをもとに、なぜ股関節に「つまり感」が起こるのか、その構造的メカニズムを詳しく解説していきます。
1. 股関節の構造と前捻・後捻の影響

股関節は大腿骨の骨頭が寛骨臼にはまり込む球関節であり、多方向に自由に動く可動域の広い関節です。
その可動性の裏には「前捻角(femoral anteversion)」という骨のねじれ具合が関係しており、正常な前捻角はおおよそ12~15度とされています。
しかし、この角度が大きすぎる「過前捻」や、逆に少なすぎる「後捻」があると、関節の回旋運動に偏りが生まれます。たとえば、前捻が強いと股関節は外旋位を取りやすく、関節唇や滑膜、関節包などが圧迫されて「前方のつまり感」が出現しやすくなります。
逆に、後捻では内旋位が強調されることで、動きにくさや引っ掛かり感、後方のつまり感が出やすくなります(Toogood et al., 2009)。
2. 上方偏位による関節の圧縮と痛み
さらに近年注目されているのが「股関節の上方偏位」です。本来、大腿骨頭は寛骨臼の中心やや下方に位置し、円滑に滑るように動きます。しかし、筋バランスの崩れや荷重の偏りによって大腿骨頭が寛骨臼内で「上方」へ偏位すると、関節面同士が強く接触してしまい、動きの滑らかさが失われてしまいます。
このような関節面の圧縮が長期的に続くと、関節唇の損傷や軟骨摩耗、いわゆるFAI(股関節インピンジメント)のような状態にも進行しやすくなります(Ganz et al., 2003)。これが慢性的なつまり感や、動作時の引っ掛かりの原因になることも多いです。
3. O脚・X脚との関係性

O脚(内反膝)やX脚(外反膝)は、見た目の問題だけでなく、股関節の運動にも大きな影響を及ぼします。O脚では荷重線が内側に偏り、股関節の外転・外旋方向へのストレスが強まります。
一方、X脚では荷重線が外側に偏り、股関節の内旋・内転のストレスがかかります。
これにより、大腿骨頭の関節面に局所的な圧力がかかり、前方あるいは内側方向の「つまり感」や痛みが生じやすくなります。特に女性は骨盤幅が広くX脚傾向が強いため、股関節の内旋と前方圧縮が起こりやすい傾向にあります(Fujii et al., 2010)。
4. 踵の傾きが股関節に与える影響
足部のアライメント、特に踵(かかと)の傾きも、実は股関節の動きと密接な関係があります。
たとえば、踵が内側に倒れる「過回内」では、脛骨や大腿骨が内旋しやすくなり、股関節の内旋可動域が増加します。
このような状態が継続すると、前捻角の影響と相まって股関節が前方にズレた状態で機能し、「前方つまり感」が強くなるリスクがあります。逆に踵が外側に傾く「回外」では、外旋と外転方向に偏り、股関節の可動性低下を招きます(Buldt et al., 2015)。
5. なぜ「つまり感」が出るのか?〜神経・筋膜・滑走の視点から〜
「つまり感」とは、単なる構造的な圧迫だけでは説明しきれない部分があります。
たとえば関節内に存在する滑膜、関節包、筋膜などの軟部組織が滑走不全を起こしたり、周囲の筋緊張が高まって関節運動の同調性が乱れたりすることでも、感覚的な「つまる」「動かしにくい」といった症状が現れます。
また、関節包内には感覚神経終末も豊富に存在しており、局所の圧迫や炎症が神経終末を刺激して違和感を引き起こすことも示唆されています(Neumann, 2010)。
6. どんな人がズレやすいのか?

では、どんな人が股関節に偏位を起こしやすいのでしょうか。以下に特徴を挙げてみます:
- 座りっぱなしの生活が多く、腸腰筋が短縮している
- 骨盤前傾が強い
- 足部の回内(偏平足)や回外が顕著
- 体幹の支持力が弱く、重心が左右にブレやすい
- O脚やX脚傾向がある
これらの特徴を持つ人は、股関節の滑らかな運動軌道が崩れやすく、結果的に「偏位」と「つまり感」を訴えやすくなる傾向にあります。
まとめ

股関節の「つまり感」は、単にその場の関節だけの問題ではなく、身体全体のアライメントや姿勢習慣が影響していることが明らかになってきました。
前捻角や後捻、股関節の上方偏位、さらにO脚・X脚、踵の傾きなどが複雑に絡み合って生じるこの症状に対しては、局所だけでなく全身の評価とアプローチが不可欠です。
整体や運動療法では、筋バランスの調整や荷重ラインの修正を通して、股関節の滑走性を回復させることが重要です。症状のある方は、ぜひ一度自分の身体のアライメントを専門家と一緒にチェックしてみてください。
参考文献
- Toogood, P. A., et al. (2009). The anatomy of the femoral neck and its relation to osteoplasty in femoroacetabular impingement. Clinical Orthopaedics and Related Research, 467(3), 609–616.
- Ganz, R., et al. (2003). Femoroacetabular impingement: a cause for osteoarthritis of the hip. Clinical Orthopaedics and Related Research, 417, 112–120.
- Fujii, M., et al. (2010). Hip morphology and impingement in patients with femoroacetabular impingement and dysplasia: a CT-based study. Journal of Bone and Joint Surgery.
- Buldt, A. K., et al. (2015). Foot posture is associated with kinematics of the lower limb during gait: a systematic review. Gait & Posture, 42(3), 289–296.
- Neumann, D. A. (2010). Kinesiology of the hip: a focus on muscular actions. Journal of Orthopaedic & Sports Physical Therapy, 40(2), 82–94.