膝関節の伸展制限と歩行時の負荷増大〜膝OA予防に向けた最新研究の知見

膝関節について

膝を完全に伸ばせない状態、いわゆる「膝関節の伸展制限」は、臨床現場でもしばしば見られる症状です。しかし、この状態で日常生活を送ると、ただの不便さに留まらず、膝関節に多大な負荷がかかることが最新の研究で明らかになっています。

この記事では、膝伸展制限と歩行時の膝関節への影響について、専門的知見をもとに解説します。


◆ 伸展制限とは?

膝関節の伸展制限とは、本来なら0°まで伸ばせる膝が、10°や20°で止まってしまう状態です。この状態が長引くと、姿勢や歩行動作に大きな影響を与えます。

  • 原因:膝周囲の筋緊張(ハムストリングスなど)、関節包の短縮、関節内癒着、術後の拘縮など
  • 影響:膝関節の動的アライメント異常、筋活動パターンの破綻

◆ 研究で示された歩行時の負荷増加

複数の研究により、膝関節の伸展制限が歩行時にどのような影響を与えるかが明らかになっています。

◆ 1. 内反角度および内反モーメントの増加

膝関節の伸展制限が強い群では、歩行中における膝の内反角度および内反モーメントが有意に高くなる傾向が確認されました。

  • 内反モーメント:膝の内側コンパートメントに集中する力。これが増すと、膝の内側に負担が集中。

◆ 2. 屈曲角度の増加

また、立脚初期〜中期にかけて、膝関節の屈曲角度が通常よりも増加することが報告されています。

  • 通常の歩行では膝がある程度伸展された状態で着地しますが、伸展制限があると膝が常に曲がったままとなり、負担分散がうまく行えなくなります。

◆ なぜ伸展制限が膝OAを進行させるのか?

膝OA(変形性膝関節症)は、加齢や過負荷により関節軟骨が摩耗し、骨変形や炎症が進行する疾患です。以下の理由により、伸展制限がその進行因子になり得ると考えられます:

  1. 荷重ラインの変化:膝が伸びないと、荷重ラインが関節内側に偏る
  2. 関節圧の偏在:伸展不足により、常に同じ部位に圧がかかる
  3. 歩行パターンの乱れ:不自然な歩行で他の関節や筋へも悪影響

◆ 治療・介入の重要性

膝伸展制限がある場合、早期の介入が極めて重要です。以下のような手法が効果的とされています:

  • 関節モビライゼーション:関節包や靭帯の柔軟性を回復
  • 筋膜リリースやストレッチ:ハムストリングス・腓腹筋などの過緊張に対応
  • 物理療法(電気刺激・温熱):組織柔軟性の向上
  • 歩行指導と動作再教育:代償動作を減らし、関節への負担を軽減

◆ まとめ:伸展制限は“見逃せないサイン”

膝が完全に伸びないというだけで、歩行における関節力学は大きく崩れます。その結果、膝OAのリスクが高まり、患者のQOL(生活の質)が低下する恐れがあります。だからこそ、伸展制限を「たかが数度」と見過ごさず、積極的なアセスメントと早期の介入が必要です。


【参考文献】

  • 複数のJ-STAGEおよびCiNii収録論文(2023〜2024年発表)
  • Biomechanical Analysis of Knee Joint Stiffness and Alignment in Patients with Gait Impairment
  • The Relationship between Knee Flexion Contracture and Knee Osteoarthritis Progression (J-Stage)

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