パソコン作業による手首の痛みはなぜ起こる?―手関節のズレと筋・神経への影響を解説―

手関節について

現代の生活において、長時間パソコンを使うことは珍しくありません。

しかし、それに伴い「手首が痛い」「指先がしびれる」といった症状に悩まされる方も増えています。これらの不調の背景には、手関節や腕尺関節、手根関節などの微細なズレや、筋肉・神経の過負荷が関係しています。

本記事では、パソコン作業によってどのような手首のズレが生じるのか、またそのズレが筋肉や神経にどのような影響を与えるのかを、解剖学・運動学・研究論文などを基に詳しく解説します。


手首の構造:どんな関節があるのか?

手首は非常に複雑な構造をしており、以下の関節から構成されています。

  • 手根関節(橈骨手根関節):橈骨と舟状骨・月状骨が形成する関節。
  • 遠位橈尺関節:前腕の橈骨と尺骨の遠位部にある関節。
  • 手根中央関節・手根間関節:手根骨間で動きを制御する関節。
  • 中手骨との関節(CM関節):母指などを支える関節構造。

これらの関節が連携して、屈曲・伸展・橈屈・尺屈といった動きを可能にしています。


パソコン作業と関節のズレ:どの方向にずれやすいのか?

長時間同じ姿勢でパソコン作業を続けることで、手首は特定方向へズレやすくなります。

1. 背屈(手の甲側に反る)方向へのズレ

キーボード入力時、手首が背屈したまま固定されることが多く、手根関節に過度な伸展ストレスがかかります。この状態が続くと、橈骨手根関節に圧迫力が集中し、手根骨の配列にも変化が生じます(Nanno et al., 2020)。

2. 橈屈(親指側)または尺屈(小指側)への傾き

マウス操作時などに、手首が横方向に偏ることで橈骨手根関節および遠位橈尺関節にストレスが生じます。特に尺屈方向は、三角線維軟骨複合体(TFCC)への影響が大きく、損傷リスクも高まります(Palmer & Werner, 1981)。


ズレによる筋肉の過緊張と炎症

腱鞘炎(ド・ケルバン病)

ド・ケルバン病は、長母指外転筋と短母指伸筋の腱が、手首の第一背側区画で摩擦を繰り返すことで発症します。これらの筋は、マウスやキーボードの使用で頻繁に動員されます(Clarke et al., 2020)。

前腕屈筋群・伸筋群の疲労と緊張

パソコン作業での固定姿勢は、前腕の屈筋群と伸筋群を持続的に緊張させ、筋疲労や筋膜炎の原因となります。この結果、筋の柔軟性が失われ、さらに手関節の可動性を低下させます(Akel et al., 2015)。


神経への影響:手根管症候群と尺骨神経障害

正中神経の圧迫:手根管症候群

手根管内を通る正中神経は、手首が屈曲位または背屈位で固定されると、圧迫されやすくなります。これにより、母指〜中指のしびれ、筋力低下、夜間の疼痛が出現します(Phalen, 1966)。

尺骨神経の影響

手首が過度に尺屈し、ガイヨン管にストレスがかかることで、尺骨神経が圧迫されやすくなります。その結果、小指と薬指のしびれや脱力感が生じます(Gross & Gelberman, 1985)。


論文データと臨床研究

以下の研究論文や資料が、手関節のズレと不調に関する理解を深めるのに役立ちます:

  • Clarke MT et al. (2020). Anatomy and biomechanics of the wrist: implications for repetitive strain injuries. Journal of Hand Surgery.
  • Palmer AK, Werner FW (1981). The triangular fibrocartilage complex of the wrist—anatomy and function. J Hand Surg.
  • Akel S et al. (2015). The relationship between keyboard use, muscle fatigue and posture among computer workers. Ergonomics Journal.
  • Phalen GS (1966). The carpal tunnel syndrome: seventeen years’ experience in diagnosis and treatment of six hundred fifty-four hands. JBJS.
  • Gross MS, Gelberman RH (1985). The anatomy of the distal ulnar tunnel (Guyon’s canal). J Hand Surg.

予防と改善のためのアプローチ

1. 姿勢の最適化

  • キーボードやマウスの位置を肘よりやや下に保ち、手首を中間位(ニュートラルポジション)で操作できるように調整。
  • リストレストやエルゴノミックマウスを活用して負荷を軽減。

2. ストレッチと運動

  • 前腕屈筋・伸筋のストレッチや、母指の腱鞘ストレッチを定期的に行う。
  • 小まめに休憩をとり、手関節の可動域を保つよう意識する。

3. 手関節の整体的アプローチ

整体や理学療法では、微細な手関節のアライメント異常に対して、関節モビライゼーションや筋膜リリースを行うことで改善が見込めます。特に、橈骨手根関節の背屈可動制限や遠位橈尺関節の不適合を評価し、アプローチすることが重要です。


まとめ

パソコン作業による手首の痛みやしびれの多くは、関節の微細な位置異常と筋・神経への負担から生じています。これらは姿勢や作業環境の見直し、適切なストレッチ・運動、そして必要であれば専門的な整体施術によって改善が可能です。

現代社会における「デジタル過多」による不調と上手に向き合い、自分の体の構造を理解してケアしていくことが、快適な生活と仕事のパフォーマンス向上に繋がります。


※この記事は複数の論文や医療文献をもとに構成されており、医学的なアドバイスではありません。症状が重い場合は専門医へご相談ください。

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